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毎日新聞[2023年1月21日掲載]

2023.01.22

シイタケ、「昆虫の王様」と呼ばれるヘラクレスオオカブト、ホウレンソウ――。何の関連もなさそうな組み合わせだが、実は互いに支え合う「持続可能な農業」の産物だ。それぞれの生産過程で出る菌床やふんなどの廃棄物を循環させる取り組みが秋田県横手市で本格化している。主に中南米に分布するヘラクレスオオカブトが、雪深い北国の町おこしに一役買っている。  横手市十文字町のシイタケ用栽培ハウスが並ぶ一角に約150平方メートルの細長いハウスがある。ヘラクレスオオカブトなどの昆虫約1万匹を育てる「ヘラクレスラボ」だ。内部には土の入ったプラスチックケースが天井まで積み上がり、中にはカブトムシの形をした茶色いさなぎが見える。  運営するのは農業関連スタートアップ(新興企業)の「Pilz(ピルツ)」(横手市)で、シイタケやほうれん草の生産販売も手がける。取り組む循環はこうだ。  県産の木材から作った菌床でシイタケを生産し、栽培後の「廃菌床」を発酵させてマットを作り、その栄養分でヘラクレスオオカブトを卵から育てる。幼虫のふんをおがくずと混ぜて堆肥(たいひ)にし、近隣の農家に配り、収穫したホウレンソウは「ヘラクレスベジタブル」のブランドで販売する。  秋田県立大(秋田市)がふんの成分を調べたところ、牛や豚のふんから作った堆肥(たいひ)に比べて野菜を大きく育てるのに必要なリン酸やカルシウムなど一部の数値が高いことも分かった。  2019年に起業した社長の畠山琢磨さん(34)は父の代からシイタケ農家。長年気になっていたのは大量に出る廃菌床の活用だった。菌床1個につき1キロほどのシイタケを栽培した後は再利用できず、放置しておくと発酵が進んで特に夏場は悪臭を放つ。秋田県は生シイタケの生産量が全国5位(21年)と盛んで、横手市はその約7割を占める。JA秋田ふるさと(横手市)の出荷量は21年度は2087トン。その分、廃菌床も年間約350万個と多い。  畠山さんの「小さい頃、自宅の畑に積まれた廃菌床にカブトムシがたくさん卵を産み、その後に雑草がぼうぼう生えていた」という思い出が事業の原点となり、シイタケ栽培に趣味の昆虫飼育を組み込んだ。  ヘラクレスオオカブトは体長約15センチと大きく、幼虫の時期も約3年と長い。食べる量も多いので廃菌床を効率的に処理できる。ラボの幼虫が年間に食べる量は約600トン。自社のシイタケ生産で出る約540トンでは足りず、他のシイタケ農家からも引き取る。  起業から3年近くたち、ようやく最初の幼虫が羽化し始めた。飼育する種類も希少なウエストウッディオオシカクワガタやサタンオオカブトなど約50種類に増やした。昆虫はオンラインなどで販売する他、市のふるさと納税の返礼品になり、イベントでも展示する。  今後の目標は「ヘラクレスベジタブル」の販路拡大で、公募から新屋高1年の和田栞那さんがデザインしたロゴも決まった。畠山さんは「県内の学生や子供たちも巻き込み、若い世代にも持続可能な社会の仕組みについて考えてもらいたい」と話す。「ヘラクレスは昆虫マニアにとっては憧れ。秋田と言えばヘラクレスと言われるまで広めていきたい」と夢は大きい。

ヘラクレスオオカブト、町おこしに一役 循環型農業 秋田・横手(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

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